旧〈モラネッズ・カフェ〉、クリキエス
一見したところ、この第二級指定建築物は、第二次世界大戦前のアールデコ時代のものに思える。だが、これは1954年にクロー・ウィリアムズ・エリスが設計した〈モラネッズ・カフェ〉で、彼独自の建築スタイルを今に伝える。エリスはあの独創的なポートメイリオン・ヴィレッジを手がけたことで名高い。
独特の曲線形と、床から天井までの窓と、厚い石壁をそなえるこのカフェ・ビルは、海に沿った散歩道の突端にそびえるクリキエス城の円塔とおもしろい対象をなしている。エリスの青写真では、建物の上に小さなガラス張りの展望ギャラリーを作り、玄関はもっと大きく豪華なものになるはずだった。しかし予算の関係で、その計画は十分に実現されなかった。
〈モラネッズ・カフェ〉の初期のオーナーの一人は、レジャー産業の起業家ビリー・バトリンだった。行楽客はバトリンが経営する休暇村(ホリデー・キャンプ)からバスでここに運ばれ、お茶の時間に催されるダンスパーティに参加した。植木鉢がそこここに置かれ、黒いドレスに白いエプロンとキャップ姿のウェイトレスがいたであろう、この広々した心地よい場所で、人々がダンスに興じたことは想像に難くない。
バトリン時代のあとの数年にわたり、建物はいろいろなテナントに賃貸された。1960年代には、「テンダー・トラップ・ツイスト・クラブ」がここで集っていたが、後にメモリアル・ホールに拠点を移した。こうしたダンスパーティは、一定年代の地元民にとって、いまも良き思い出である。
2015年に〈ディランのレストラン〉がこの建物を引きつぎ、大掛かりな改装を行なった。CADW(歴史的記念物保存協会)の同意を得て、建物への入口はエリスの当初の設計に近いものになっており、その青写真はレストラン内で見ることができる。
地元シーフードを専門とするこのレストランは、しばしばワインや映画の夕べなどのイベントを催す。また、毎年6月には「楽しいモラネッズ」という行事を続けており、子供たちが音楽、美術、曲芸などのワークショップに参加する。
ロバート・カドワラデル氏のご好意でここに掲載した絵画「モラネッズ・ノスタルジア」は、旧〈モラネッズ・カフェ〉の雰囲気をよく伝えている。
翻訳: 藤沢邦子
郵便番号: LL52 0HU 所在地の地図