『マビノギオン』における アイルランド王の上陸地、ハーレフ
『マビノギオン』(下記の注参照)の一話によれば、ブリテン島の王の妹ブランウェンを妃に迎える請願をすべく、アイルランド王マソルッフが上陸したのがここハーレフの岩場だった。彼の到來は、やがて、この島にとって三番目に不幸な打撃をもたらすことになる。
『マギノビオン』の写本集が集大成されたのは14世紀だが、ハーレフ城はそれ以前の1280年代に築かれており、城から浜へ降りる階段がついていた。海水は築城当時からだんだん沖へ引いていったようだ。写本集の元である伝承物語は、城よりさらに何世紀も前にできていた。なので、ある写本は「アイリッシュ海は、大昔は二つの川から成る程度の狭いものだった」と記している。
ブランウェンの物語は、彼女の巨人の兄ベンディゲイドブランが設けていた宮廷幕屋のあったハーレフの岩場(現在、ハーレフ城が立っている場所)から始まる。マソルッフを乗せた船団が近づき、岩の下の浜辺に上陸を許された。その夜、ベンディゲイドブランは縁談について相談する会議を開いた。
ブランウェンはマソルッフに嫁ぐことになり、祝宴がアングルシー島で行なわれた。ところが、彼女の別の兄エヴニシエンが、マソルッフの馬たちをひどく痛めつけた。彼は妹の縁談の許可を請われなかったことを侮辱と感じたからだった。ベンディゲイドブランは償いとして代わりの馬を与え、さらにかつてアイルランドで作られたという魔法の大釜をも、マソルッフに与えた。
ブランウェンとマソルッフは息子を授かったが、彼らの幸福は続かなかった。エヴニシエンの無礼に対する、アイルランド人達の怒りが大きくなり、仕返しとしてブランウェンは台所に追いやられてしまった。そこでは肉切人が毎日彼女をぶつという恥辱まで加えられた。3年後、彼女はペットの椋鳥に手紙を託して、海の向こうのカエルナヴォンにいる兄ベンディゲイドブランに助けを求めた。巨人である彼は海を歩いて、戦士たちは船に乗って、彼らはブランウェン救出のためにアイルランドへ向かった。船団を見たアイルランド人達は、島と森が近づいてくるかのように思った。
ブリテンからの来訪者と、アイルランド人との和平交渉が整った。だが、エヴニシエンは甥(新しいアイルランド王)が自分に挨拶に来なかったことにまたも腹を立て、とつぜん甥っ子を火に投げ込んだ。その暴挙に対して再び戦いが始まると、エヴニシエンは自分の所業を恥じて、魔法の大釜に入って自殺。ベンディゲイドブランは足に毒槍がささって致命傷を負った。アイルランド人は敗北し、ブリテンの戦士は7人しか生き残らなかった。ベンディゲイドブランは自分の首を切り落とし、ロンドンに持ち帰るようにと戦士に命じた。
アングルシー島に戻ったあと、ブランウェンはブリテンとアイルランドの二つの島が滅びたのは自分のせいだと思い、悲しみのあまり心臓が張り裂けて死んでしまった。
注: 『マビノギオン』は、知られざる多くの作者により写本として集大成された、ウェールズ語の散文物語集である。文学的形態をとっているが、中世のストーリーテラーによる口承伝統のスタイルや特徴をはっきり備えている。
『マビノギオン』の日本語訳はいくつかあるが、ここでは中野節子氏によるウェールズ語原典からの訳書を紹介する。
中世ウェールズ幻想物語集 『マビノギオン』 (中野節子訳、JULA出版、2000)
郵便番号: LL46 2UG 所在地の地図
翻訳: 藤沢邦子
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