魔女たちが流れ着いた浜、スランドナ、アングルシ―島
伝説によると、何世紀もの昔、魔女とその夫たちでいっぱいの舟が一隻、島の砂浜に打ち上げられた。オールも帆も舵もない舟は、異国から、たぶんアイルランドから、漂流してきたらしい。死ぬほど食べ物と水に飢えていた彼らは、陸にあがるや呪文一声で、真水のほとばしる泉を出現させた。
新来の一団は、浜辺から少し南のスランドナ村のそばに、自分たちの家を建てた。男たちは密輸をなりわいとした。彼らはネッカチーフの中に蝿を潜ませていて、役人に捕まりそうになると、その蝿を解きはなって応戦したという。蝿が役人たちの目を襲い、目が見えなくなってしまうのだ。
女たちも、男たちに劣らず、人々に恐れられた。子豚を市場に売りにいく村人は、やってきた魔女が自分の欲しいものを取ってしまうまで、だれも競りを始めようとしなかった。魔女たちは、村人が水浴びをする川に呪いをかけたり、狙った相手の井戸に悪さをしたという話も伝わっている。時には、呪いのせいで、家畜が病気になったり、牝牛が乳を出さなくなったり、ミルクを撹拌してもバターができなくなったりした。
あるとき、呪われた病人を治療するために、本土から賢い医者が呼ばれたが、彼は病人の家を見つけることができなかった。魔女たちが邪魔をして、彼を道に迷わせたのだ。土地の人々は、医者が病人のところへいく道を見つけられないようなら、病気の原因も見つけられまい、と思った。
何世代にもわたり普通の人々との結婚を繰りかえしているうちに、魔女たちの魔力は衰えていったと言う。しかし1892年の記録によれば、魔女への恐怖は19世紀の半ばまで、続いていたようだ。
翻訳: 藤沢邦子